ピアノ・ソナタ

ピアノ・ソナタイ長調 D664 作品 120 

Sonata für Klavier A-dur D664 Op.120

作曲 1819年7月頃(別の説もある)
出版 1829年春 J.ツェルニー社(ウィーン)
 1819年夏、シューベルトはフォーグルとともに、フォーグルの故郷のシュタイヤを訪れ ました。

 シュタイヤ滞在中、コラー家に滞在しました。次の手紙は、1819年7月13日、シュタイヤから兄フェルディナンドにあてたものです。

「(前略)僕の住んでいる家には女の子が八人もいて、それがほとんどみんなかわいい子ばっかりだ。僕が忙しいってことがわかるでしょう。僕とフォーグルが毎日ご馳走になるフォン・コラー氏の娘はとても可愛らしくてピアノが上手に弾ける。僕のいろいろなリートをこれから歌ってもらう予定だ。(後略)」

 ここに出てくるシューベルトお気に入りの娘はヨゼフィーネといって、実際シューベルトは彼女にピアノ・ソナタを贈っています。このD664がそれです。ヨゼフィーネはこのとき19歳、シューベルトは22歳でした。

 曲の成立年代に関しては1825年の説もあったそうですが、L.シャープラーという研究家が1907年に詳細な研究を発表し、1819年7月ごろと考証されているそうです。

第1楽章 アレグロモデラート イ長調 4分の4拍子

 ソナタ形式でできています。伸びやかな美しい旋律で始まります。 第2主題も3連符の伴奏にのりかわいらしく提示されます。無駄のない運びの提示部を終えると、右手と左手が交互に音階と和音を奏するのが印象的なエピソードのある展開部を経て、また穏やかに再現部を迎えます。最後に短いコーダがあり、ちょっとの沈黙の後に第1主題を回想し、静かに曲を閉じます。(演奏)

 この曲を弾くとき、片手に10度の音程などしばしばあり、アルペジオのように弾かなければいけません。コラー嬢は大きな手をしていたのでしょうか?私見なのですが、この曲は連弾として構想されたのではないでしょうか。楽譜を見ての感想なので、それ以外の何の根拠もありません。でも、家庭音楽会でとてもかわいい女の子とシューベルトが楽しく、纏綿とこの曲を連弾して奏するのを、みんなが楽しんでいる様子を想像するのは楽しいことです。

第2楽章 アンダンテ ニ長調 4分の3拍子

  ソナチネアルバムの巻末に乗っているピースとしてご存知の方も多いのではと思います。やさしくて美しい楽章です。聞いていてホッとします。ヒーリング効果があるかもかもしれません。「いやし系」ですね。ときどきあらわれるセンチメンタルな雰囲気も素敵です。やはり、ヨゼフィーネを想いかかれた作品なのでしょうね。

 2つの旋律からなります。最初の旋律が中間で3連符の変奏になって現れるのを二つの旋律群がサンドイッチします。(A-B-A(3連符変奏)-A-B)3部形式というところでしょうか。(演奏

第3楽章 アレグロ イ長調 8分の6拍子

 ロンド的な要素のあるソナタ形式で書かれています。かわいらしい小洒落た感じの素敵な第1テーマと、ワルツのようなリズムを持ち、装飾音の印象的な、優美な第2テーマからできています。それをこれまた印象的な左右の手交互のアルペジオや装飾的な動きの16分音符が彩ります。

 展開部は短いながらめまぐるしい転調で面白く聞かせてくれます。

 再現部の後、第1テーマを回想するかのような、短いコーダで、洒脱に締めくくります。(演奏

備考  

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